大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(う)431号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人鈴木光友作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官窪田四郎作成名義の答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

なお、弁護人は、その控訴趣意中、原判決には審判の請求を受けない事件について判決をした違法があり、また、その訴訟手続に判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があるとの各主張を撤回する旨付陳した。

控訴趣意第一(理由不備ないし理由のくいちがいの主張)について

所論は、原判決は、被告人が他の一名と共謀のうえ、原判示の期間、場所において、第六三回全国高校野球選手権大会に関し、優勝校及び準優勝校を連勝単式の方式により予測して金銭を賭けさせる、いわゆる野球賭博を開張し、原判決添付の一覧表記載の賭客鈴木利幸ほか三八名から同表記載の口数及び金額の申込みを受けつけ、その際、予想の的中するときは、賭金総額から約四割三分を差し引いた額を支払うこととして利を図ったものであると認定している。しかし、一覧表記載の申込金合計額二三万六、六〇〇円及び申込口数合計一、一八三口を基礎として計算すれば、利得額の割合は到底判示のような約四割三分には達せず、右割合は、一覧表記載の賭客以外の分を含んだ合計約一四〇万円もしくは約一四一万円の申込金額及び約七、〇〇〇口の申込口数を基礎とし、そのうち被告人が約六〇万円もしくは約六一万円を利得したことを前提として、初めて算出し得るものである。従って、原判決は、一覧表において認定する事実とは異なる事実を基礎にしてその利得割合を認定した点において、前後矛盾しており、理由不備ないし理由のくいちがいがある、と言うものである。

記録を調査して検討すると、たしかに、原判決添付の一覧表に記載された申込口数及び金額を基礎として計算すれば、被告人らの利得割合は三割足らずであって、原判決認定の約四割三分とは異なることが認められる。そして、右約四割三分という利得割合は、原判決挙示の証拠によれば、一覧表記載の賭客以外の分を含んだ所論のような約七、〇〇〇口の申込口数及び約一四〇万円の申込金額を前提とし、いわゆるカスリとして利得すべき金額を約六〇万円とすることによって、初めて得られるものであることが明らかである。従って、右約四割三分という数字を判示する原判決が、一覧表記載の賭客以外の分を含んだ申込口数及び金額を、その判断の前提としていることは所論のとおりである。

しかし、賭博開張図利罪は、利を図る目的で、賭博場を開張することによって成立するものである。すなわち、賭博場開設の対価として、財産的利得をしようとする意思の下に、賭博場を設けて賭博の機会を与えることを要するとともに、それでもって足りるものと言うべく、現に賭博が行なわれること、または、開張者が現実の利得を得ること等を必要とするものではなく、況や賭客または利得の多寡の如きは、何ら犯罪の成否に関係のない事柄である。

これを本件に即して言えば、被告人が、鈴木正次と共謀のうえ、野球賭博の賭金からカスリを得る目的をもって、被告人方を本拠と定め、一口の申込金額を二〇〇円とし、大会参加高校の組合せ表を作成し、かつ連勝単式の方式により優勝校及び準優勝校を予測指示させることとして、右組合せ表を賭客に配布し、以後何時でもその申込みを受付ける態勢を整えた時点において、賭博開張図利罪は成立するものと言うべきである。ただ、本件においては、昭和五六年八月四日から同月九日までの間、右状態が継続したことから、それが一罪をなす関係上、原判決は、判示期間内に賭客が現実にあったことを、一覧表中にその氏名を列記して例示することを主眼とし、併せて同人らの申込金額及び申込口数を記載するとともに、他方、被告人らの図利の目的を、その利得割合をもって具体的に判示し、両者相俟って、本件犯情を明らかにしようとしたものと解すべきである。すなわち、原判決挙示の証拠によれば、判示期間内における賭客の数は、右一覧表記載の数よりも多いが、原判決は、氏名の判明している者のみを同表に記載したことが明らかである。従って、一覧表による判示をもってしては、賭客に関する犯情の全貌を示すのに不十分であるという意味において、原判決は、その措辞に適切を欠く憾みがないではないが、右のような趣旨に基づき、多数の賭客があった旨を例示し、その犯情を明らかにしたに過ぎないものと解するのが相当である。そうすると、約四割三分という被告人らの利得割合を算出するために、賭客の存在を例示することに主目的があるに過ぎない一覧表に併記された申込金額及び申込口数を前提とする必要は些も存しないのであり、原判決が、一罪をなす全体の犯情を明らかにすべく、被告人らが賭博場を開張していた前記期間内の申込金の総額である約一四〇万円と、当時被告人が計算上算出した、利得すべき金額約六〇万円とを前提としたことは相当であって、その判示に矛盾があるとすることはできない。

結局、被告人の賭博開張の所為が、一覧表に記載されている賭客との間においてのみ成立したかのように解し、これを前提として被告人の利得割合を算出すべきであるとする所論は、賭博開張図利罪の性格及び原判決の趣旨とするところを正解しないものであって、到底採用することができない。

控訴趣意第二(量刑不当の主張)について

所論は、まず、原判決が起訴されていない事実を基礎に約四割三分という利得割合を認定し、これを前提として刑を量定したのは不当である、と言う。

しかし、原判決が約四割三分の利得割合を認定したことに何らの問題も存しないことは、前段説示のとおりであるから、所論は理由がない。

次に所論は、原判決の量刑が、本件犯行の規模、被告人の年令、経歴、職歴、前科等に照らすと、重きに失する、と言うのである。

しかし、被告人が本件犯行に至ったのは、所属している○○組内□□組の若頭である都正廣が逮捕されて、小遣いに不自由をきたしたためであって、その動機に同情の余地はなく、しかも、被告人は、自宅を本件賭博開張のための本拠として提供し、かつ一口当たりの申込金額、参加高校の組合せ等の決定、組合せ表の印刷、配布について、共犯者鈴木正次に対し、終始主導的立場にあった者である。また、被告人は、賭金として集金された約一〇〇万円余の中から、オートレースに約七〇万円を費消したものであって、その犯情は、右共犯者に比し、極めて悪質と言わなければならない。

加えて、被告人は原判示累犯となるべき前科を有し、その最終刑を昭和五五年九月六日に受け終ったばかりであって、一年も経過しないのに、再び本件犯行に及んでいるのであるから、厳しくその刑責を問われるのは、やむを得ないところである。

従って、所論指摘の諸事情を被告人に有利に斟酌してみても、原判決の量刑(懲役一年六月)が不当に重いとは言えない。論旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草場良八 裁判官 半谷恭一 須藤繁)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例